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Dream Babes Vol.1 "Am I Dreaming" TALK LINER NOTES by オノタカコ × JUDY

あまり知られてないイギリスのガールズを、どどっとコンパイルしたDream Babesシリーズの第一弾、「Am I Dreaming」。 一体どんな女の子たちが集められているのか、 オノタカコとJUDYのガールズ・トークです。


●ブリット・ガールはガッツリ仁王立ち?

オノタカコ(以下T):セイント・エティエンヌのボブ・スタンリーが集めたブリット・ガールズのコンピレーション盤ということなんだけれども、日本じゃほぼ知られてない子ばっかりなの。
JUDY(以下J):そうなの。これ、完全にマニア向けね。日本にもアイドル・オタクはいるけど、ボブ・スタンリーもそういうオタ系で、ほとんど無名というか、「知る人ぞ知る」の女の子ばかりを選んでいるみたい。
T:アルバム・タイトルが「Am I Dreaming?」だから、ドリーミンな感じの曲を集めてるんだろうけど、やっぱりどの子にもブリット・ガールの持ち味のガッツリした威勢のいい感じがあるの。
J:そう! 無名の子ばかりでも、やっぱりブリット・ガールはガッツリね。タカコさんが命名した「仁王立ち」系(笑)。
T:仁王立ち系の代表と言えば、「英国の美空ひばり」と私が勝手に思ってるダスティ・スプリングフィールドや、モッズのアイドル、シラ・ブラック、ダイナマイトなルルなど、どの子もキャピキャピしてないの。どうしてイギリスの女の子の歌い方って威勢がいいんだろう。
J:ウィスパー・ボイスの頼りない感じが全然ないのね。
T:でも、M-2のサマンサ・ジョーンズちゃんは、スペクター・サウンドにアレンジした曲でドリーミンに歌ってるわ。彼女はブリット・ガールズの登竜門(?)ヴァーノン・ガールズの出身。
J:ヴァーノンズ・ガールズと言えば、このコンピには収録されてないけど、ブレイカウェイズよね。ブレイカウェイズもヴァーノン・ガールズ出身。
T:うん、ブレイカウェイズは「仁王立ち」系譜の筆頭ガールグループね(笑)。
J:ヴァーノンズ・ガールズって「ヴァーノンズ・フットボール・プールス・カンパニー」っていうサッカーの試合結果で賭け事をする会社の社員がリクリエーションのために始めた合唱団なんだって。それが、その後プロのシンガーたちのバックで歌ったりするようになったそうよ。
T:この間、YouTubeで「OH, BOY!」という'50年代後半に始まったイギリスで最初の10代向けTV音楽番組を見てたら、ヴァーノンズ・ガールズが出てたわ。以前からイギリスのガールズ・シーンの始まりって誰なんだろうと思ってたんだけど、このヴァーノンズ・ガールが生みの母というか、最初のきっかけなのかなと思ったの。TVで大勢の女の子が歌ったり踊ったりして。
J:スクールメイツからキャンディーズが誕生した、みたいな(笑)。
T:そうそう(笑)。今で言えば、AKBとかハロプロの中からグループ結成したりソロになったり、そんな感じかしら。ヴァーノンズ・ガールズは誰かのバックで歌ったりしてるうちに、人気のある子や、実力のある子はソロ・デビューしたり、別のグループを結成したりしてたみたい。サマンサちゃんも、歌が上手くてキレイだったから、誰かに見出されたんでしょうね。
J:M-3のジャッキー・リーちゃんは子供の頃から映画や舞台に出てて歌手活動もしてたらしいわ。「ジャッキー・リー&レインドロップス」というグループもやってたし、実はかなりベテランさんなのね。けっこう、子役とかタレントっていうの子がレコード出して、プロデューサーに気に入られて、っていうシンガーも多いのね。
T:ガールズ好きな業界人(笑)。
J:そう。これはアメリカでもそうなんだけど、ガールズって、そんなに売れないのにレコード会社は出し続けるんだって。商業的にはたいして売れてなくても、ガールズのブームが終わった'60年代後半くらいまでレコード出し続けてたの。


●男性のほうが「乙女」ね。

T:ガールズって、'63〜'64年くらいまでがピークでしょう?
J:うん、ビートルズが出て来て急速にブームが去っちゃうんだけど、でもそのあと'60年代後半までけっこうレコードは出ていて、売れてない子たちもたくさんいるの。
T:このアルバムは'66年以降のナンバーが多いみたいだけど、'60年代も後半になると、フォーキーだったり、ソフトロックな雰囲気がちょろっと出てくるわね。関わっているプロデューサーもその後ソフトロックでヒットした人が多いみたいだし。トニー・マコーレーとか、ピーター・グリーナウェイとか。
J:どんな人もガールズが好きで、ついやりたくなっちゃうのね(笑)。
T:ソングライターやプロデューサーは、特定のガールシンガーをイメージして曲作ったりしたくなるんじゃない?
J:イギリスのフィル・スペクターと言われてるジョー・ミークも「Joe Meeks's Girls」というコンピも出てるしね。
T:バンドマンもガールフレンドに曲を作って歌わせてるものね。ミック・ジャガーとキース・リチャードが一番最初に作ったオリジナル曲は、当時のミックの彼女だったマリアンヌ・フェイスフルの曲だし。
J:そうね。ブライアン・ウィルソンがハニーズ(ブライアンのガールフレンドで今の奥さんであるマリリンが参加していたガールグループ)をプロデュースしたりね。自分のレコーディングの合間に女の子たちに歌わせたりしてたみたい。やっぱり可愛い女の子が好きなのね。歌わせたくなっちゃうのかな。
T:「オレ好みの色に染めたい」的な(笑)。女の子をプロデュースすることって、そういう側面はきっとあるよね。それとソロ歌手が多いのは、男子バンドの妹的存在としてバーターで売り出すとか(笑)。
J:あと、男の人の方が、案外「乙女」なんじゃない?
T:あー、そうかもね。ジェリー・ゴフィンなんて、「男の人なのに、なんでこんなに可愛い歌詞を書けるんだろう!?」と思うもん。


●ソロシンガーが多いのはナゼ?

J:M-4のジェーン・ヒラリーちゃんも、そんなガールズ好きな業界人に発掘されたのかしら。1枚だけシングル出して消えちゃったんだって。
T:M-5のリンダ・ケイちゃんもそうみたい。この「I Can't Stop Thinking About You」という曲は、パイ・レコーズの敏腕プロデューサー、トニー・マコーレー(エジソン・ライトハウスの「Love Grows(Where My Rosemary Goes)」など、ヒット曲多数)作なのね。彼女もパイ・ガールズのひとりだったのかな。
J:トニー・マコーレーといえば、ペイパー・ドールスを手掛けたけど、パイ・ガールズには、1曲だけで消えていった子がたくさんいそうだから、ソングライターやプロデューサーなどが全部わかるガイド本があるといいのにね。M-8「Sour Grapes」のパッツィー・アン・ノーブルちゃんは、ブリット・ガールには珍しくキャピキャピ可愛い系。
T:プロデュースしがいのありそうな、ロリータ系(笑)。次の曲はアルバムタイトルになってるM-9「Am I Dreaming」だけど、ジャッキー・ディシャノン作だわ。やっぱりガッツリ歌ってるけど、ティファニーちゃんて、どんなお嬢さん?
J:元々は「リヴァーバーズ」という女の子だけの4人組バンドのリードボーカルだったんですって。
T:あっ、リヴァーバーズは知ってる。ボ・ディドリーやチャック・ベリーのカバーばかりやってたガレージバンドね。そのボーカルだった子!? 早々にリヴァーバーズを抜けて、フォー・ディメンションズという男子バンドに加入して‥‥。
J:そう、フォー・ディメンションズに入って、ティファニーズ・ディメンションズと名前に変わるんだけど、ティファニーちゃんはすぐにソロデビューするの。それがこの曲。
T:ガレージバンドやってたから、ガーリーな雰囲気に挑戦してみたくなったのかしら(笑)。
J:そうね、でもこのアルバムには入ってないけど、「Am I Dreaming」のB面曲、バーバラ・ジョージの「 I Know」の方が、モッジーで彼女らしくていいと思ったわ。
T:M-10「Softly In The Night」のスリー・ベルズは、ブリット・ガールズには数少ないガールグループ。双子を含む三姉妹だそうよ。
J:てことは、イギリスのシャングリ・ラス? まぁ、シャングは本来4人組だけど。
T:この曲はクッキーズのカバーね。クッキーズとはまた全然違って元気いっぱいね。それにしても、イギリスのガールズ・シーンって、こういう3人組、4人組などのいわゆるガールグループは少ないのね。
J:そうね、イギリスのガールズ・シーンは圧倒的にソロシンガーが多いの。
T:もしくはバンドの中のボーカルが女の子いうパターン。この紅一点バンドというのは、逆に当時のアメリカにはいないの。まだロックンロールが生まれて10年経ってないくらいの頃だけれど、ブリット・ガールはバンド指向だったのかな。
J:M-11のアルマ・コーガン、彼女は「Pocket Transistor」とか有名よね。正統派「仁王立ち」系の(笑)。
T:うん、カッコいい。ちょっとこの曲やりたい(笑)。バンドっぽい曲だな、と思ったら、サーチャーズのクリス・カーティス作。
J:M-12「Wait 'Til My Bobby Gets Home」はダーレン・ラブのカバーね。この頃の イギリスは,昔の日本と同じで、アメリカで流行った曲や、そんなにヒットしてない曲でも、探してきてカバーしちゃうってのが多かったのよね。
T:このビバリー・ジョーンズもダーレンのが出て、すぐにカバーしてるみたいなんだけど、うーん、ジャック・ニッチェのオリジナル・アレンジが素晴らしすぎるから、このバージョンはいまひとつかなぁ。ビバリーちゃんは頑張っているけれど。


●みんな大好きBreakway!

J:キターッ! M-13「Breakaway」
T:このベリル・マースデン・バージョンのアレンジはアーマ・トーマスが'63年に出したのをお手本にしてるのね。もちろん、オリジナルはジャッキー・ディシャノンなんだけど、当時ジャッキーは正式にはリリースしてなかったみたい。プロデューサーは、ダスティ・スプリングフィールドと組んでたアイヴァー・レイモンド。ダスティ姐さんの1stシングル「二人だけのデート」の作者ね。
J:ベリルちゃんも、「仁王立ち」系ガッツリ・ボーカルだから、いかにもレイモンド先生が気に入りそうよね。
T:ベリルちゃんはその後、ほんの一時期だけど、ロッド・スチュワーとやピーター・グリーンとかとショットファン・エクスプレスというバンドを結成するそうだから、やっぱりロッキンな子だったのね。
J: '80年代になってトレイシー・ウルマンがカバーして、日本では特に愛聴されている「Breakaway」のアレンジは、このベリル・バージョンのアレンジを踏襲してるとボブ・スタンレーは言ってるようだけど、聴いた感じだと違うわよね。
T:うん、私も違うと思う。やっぱりトレイシー・バージョンはアーマ・バージョンを元にしてると思うわ。でもまぁ、あくまでも印象だけどね。トレイシーのは'80'sエレポップ全盛のキラキラした感じだし。
J:「Breakaway」は、日本のガッツリ・シンガー代表のミコちゃん(弘田三枝子)にもカバーして欲しかったわね。
T:あー、私もミコちゃん・バージョン聴いてみたい! 「Breakaway」は今では日本でもたくさんカバーされているけれど、ガッツリ歌ってる人はいないから、ミコちゃんとか、中尾ミエ姐さんあたりに歌い上げて欲しいわ(笑)。


●無名のお嬢さん達もオススメよ。

J:M-14のマデリーン・ベルちゃんはどんなお嬢さんなの?
T:この当時はダスティ姐さんのバックコーラスをやってたそうよ。そういえば、声がダスティ姐さんと似てるわね。セッション・シンガーだったんだけど、その後ソロシンガーとして花開いたんですって。モッズやノーザン・ソウル系の歌姫らしいわ。
J:ブリット・ガールはのほとんどは白人だけど、彼女は黒人なのね。
T:今も活動中だそうよ。
J:M-16のザ・トラックは、女の子2人に、バックが男子4人のバンドらしのだけど、謎のグループ。
T:ハモるところなく、全部ユニゾンで歌い切って、ちょっと面白いね。
J:M-18のアンディ・シルバーもローティーンから活動していて、こののち、イタリア映画音楽界の巨匠アルマンド・トロヴァヨーリが担当した「女性上位時代」のメインテーマ曲を歌って、そっちの方が有名みたい。
T:M-19のレスリー・ダンカンは'70年以降活躍するシンガーソングライター。エルトン・ジョンが彼女の曲をカバーして、注目されたの(エルトンとデュエットしてる「Love song」という曲)。この「You Kissed My Boy」も彼女の曲。イギリスでは女の子のシンガーソングライターは少ないけど。
J:思いつくのはヘレン・シャピロくらいかしら。当時のイギリスでは女性のソングライターはまだ珍しかったわね。
T:M-21のキャロル・ディーンは、ブリット・ガールには珍しいシュガシュガ・キャピキャピ系ね。
J:ジェニー・ソマーズやリンダ・スコットのカバーをしてた子らしいわ。
T:M-22のエマ・レドちゃんは、実はM-3のジャッキー・リーちゃんの変名なんだって。エマちゃんの名前で1枚だけシングルを出して、そのB面曲で、けっこうヒットしたそうよ。
J:当時は名前を変えて出すことが多いけど、びっくりね。
T:で、このアルバムの中で、私が一番気に入ったのが次の曲だったんだけど、M-23「Once More With Feeling」のアリソン・ワンダーちゃん。
J:この名前もきっと変名ね。誰が歌ってるのはわからないけど、覆面シンガーだわ。アリス・ワンダーランドっていう名前のシンガーもいたし。
T:グリーナウェイ&クック作の、これぞドリーミンな曲。コーラスが男性の声で、メロディもそうだけど、フォーシーズンズやビーチ・ボーイズを思い起こすよね。
J:ラストM-24のピーナットちゃんは、マリオネッツというグループをやってた、トリニダードトバゴ出身のキャスリン・カイスーンてお嬢さん。
T:サイケ・サウンドの魔術師でソフトロックの奇才、マーク・ワーツによるナンバー。アンニュイで、その後のソフトロックへの流れを感じるアレンジ。何度も聴いてるとノルタルジックな懐かしい気持ちになってくるわ。
J;うん、サラッと歌ってるところが、逆にジワジワといい曲。
T:そうね、正直言って、この頃のイギリスのガールシンガーは大味な感じがしてあんまり好きじゃなかったんだけど、このコンピを何度も聴いていたら、どの曲もジワジワと、いい感じに沁みてきたな。
J:同じ時代の日本のシンガーとも共通する歌い方や選曲も面白いわ。アメリカで流行ってても流行ってなくても、カバーしちゃうところとか。ワンヒットワンダーな女の子がほとんどだけど、英国ガールズ入門としてオススメでございますね。


※使用しているヘレン・カーチスのヘアスプレー「Go Gay」の広告写真は、「Am I Dreaming」の裏ジャケットに一部、用いられていたので、 使わせていただきました。当時のビーハイヴァーには御用達のヘアスプレーだった‥‥のかな?


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